広域エリアで弾く革新のフェース構造
現代のクラブに求められる性能は機能性とフィーリング。簡単に言えば、やさしさと使い心地である。しかし、この2つの要素をヘッドという、それ自体は動かない固体に集約するのは至難の業だ。特に設計自由度の少ないアイアンは通常、ウッドに比べて開発は難しく、進化のスピードが遅い。
しかし「オノフアイアン」は、2002年の初代モデルから斬新なヘッド構造でこの難題をクリア。"やさしく飛ばせる"アイアンとして着実に知名度を高めていった。
その経緯の概要は、【第3回】プレッシャーが創造力を生んだオノフアイアン(前編)で触れた。今回は2012年モデルの新生「オノフアイアン」のさらなる機能とフィーリング向上について、より細かに掘り下げていく。
まずは機能性の向上についてだが、ヘッドのどの部分を改善、改良していったのであろうか。
「最も大きな変更点はフェースです。Y字型リブ搭載4エリア4段階肉厚フェースと呼んでいますが、これはフェース裏面にY字型のリブを立てて立体感のある形状にしたものです。フェースの厚さに変化を持たせることは、ドライバーのフェースでは主流の製法ですが、2012年モデルの『オノフアイアン』のトピックとしてチャレンジしてみました。4分割された部分の肉厚は、フェース上部を1.8ミリ、トゥ側を1.5ミリ、フェース下部を2.1ミリにしてあります。打点付近となるY字リブの最も厚みのある部分は、2.5ミリ。これはインパクト時に当たり負けしないための工夫ですが、ただ、リブ全体がこの厚みのままでは剛性ばかり上がってしまうので、端面に向かって幅も高さも狭く低くし、剛性を抑えて効率よく反発性能を引き出すことに成功しました。特にヒール側の反発係数が上がったことで、フェース面全体の反発エリアが拡大し、ミスヒット時の飛距離、方向性のロスを大幅にカバーする構造になっています」
アイアンのフェース形状は、左右非対称。トゥ側が高く、ヒール側が低い。当然、ヒール側の反発が弱くなる。そこで熟慮した結果生まれたのがフェースの肉厚を変える手法だった。おそらくアイアンでは業界初の試みであろう。いかにも開発・設計のスペシャリスト飯嶋らしい斬新な発想である。
「毎回、アイアンを作る際、我々開発メンバーとデザイナーの間で、いかに機能とデザインを融合させるかを中心に議論し、この形状に辿りつきました。外観はシンプルですが、オノフアイアンらしい飛距離性能を存分に堪能してもらえるでしょう。得られた利点はインパクトエリアの拡大、つまりは高初速エリアの拡大なのですが、さらにフェース上部とトゥ側の軽量化 (約4g) により、余剰重量をタングステンに置き換え 、低・深重心化も促進しています。2010モデルと比較すると、重心高さも2ミリ低くなり、ボール初速、打ち出し角の向上で、最高到達点は1.5ヤード高くなり、トータル飛距離も約3ヤードほど伸びています」
新旧の5番アイアンで計測したこのデータは、ヘッドスピード40m/s前後のアベレージゴルファーをターゲットにして行ったものだ。一見すると少ない数値に思われるかもしれないが、ロフト設定が同じ(24度)ということを鑑みると明確な違いとして見て取れる。しかも、高初速が広いので打点がブレても極端にラインを外れたり、スピン量が変化したりしないことを加味すれば、非力なゴルファーでもボールの上がりやすさと飛距離性能は十二分に感じ取れるはずだ。
感性を邪魔しない秀逸の美形ヘッド
もう1つの性能、フィーリングの話をするならば注目したいのがヘッド形状。アイアンの魅力といえば、まず思い浮かぶのが、その気にさせるソリッドな"顔立ち"だが、この部分を優先し過ぎると大半のアベレージゴルファーは「難しい」「捕まらない」といったマイナスイメージが先行してしまう。すっきり構えられてラインも出しやすく、さらに飛距離と方向性を兼ね備えたモデルは数少ない。
しかし2012年モデルの「オノフアイアン」は、高機能ヘッドとは思えないほど贅肉を削ぎ落としたシンプルな美形。やや誇張すれば、フォージドの軟鉄アイアンをそのまま拡大させたイメージで、見事にシェイピングされている。最新の機能を注ぎ込んだだけでなく、フィーリングの高さも重視して作られている。
「実は9番アイアンまでのヘッド素材 (ボディ) も新たに開発したものを採用しています。『ST22』というステンレスなのですが、表面は硬く傷が付きにくい。その反面内部は軟らかく、ライ・ロフトアングルの微調整 (±1°)がやりやすくなったのが特長です。この素材開発に成功したこともあって、ヘッドは2010年モデルと比較すると全体的に小振りにしました。その分、トゥトップの部分を前方へ突き出し、トップブレードを長く見せるカッティングにしてあります。またバウンス角も番手ごとに0.5°ずつ減らしました。全ては抜けの良さやラフへの対応力を向上させることが主意になります。フェース素材は2010年モデルと同じマレージングですが、すでに説明した『Y字型リブ構造』によって打感、打音も改善されています。ヘッドとボールのコンタクトは短く、弾き感が強い、という打感は残っていますが手元に響かない。またマレージング特有の高音質の打音も、極力低く抑えています。インパクトの衝撃をヘッド全体でしっかりと受け止めて弾く、と言えば解りやすいでしょう」
2012年モデルの「オノフアイアン」は、#6~PWの5本セットが基準で#4、#5は単品扱いになっている。これは、ロングアイアンの代わりにユーティリティを入れる、という現在のクラブセッティングの潮流を考慮したものである。6番アイアンのフェースプログレッション (オフセット) を1度に設定してあるのも、ニューモデルユーティリティ「FAIRWAY WINGS TYPE-D」との流れを最適化するためであろう。
こだわり抜いた番手別設計シャフト
これまで、飯嶋にはヘッド機能とフィーリングについて語ってもらった。ただ忘れてはならないのが、クラブに対する信頼感はトータルバランスで決まる、ということだ。その鍵を握るのはシャフト。あえてシャフトと言い切ってしまう。その造り込みの度合いによって、振り味は驚くほど変化するからだ。
「2012年モデルに採用したオリジナルカーボンシャフト(MP-5121)は1本1本番手別設計。重量フローはもちろんフレックス、トルク、振動数まで各番手に求められる弾道、球筋等を考慮して最適化させなければならないわけですから苦労しました。基本は2010年モデルと同様、先端部にタングステンプリプレグ (タングステンパウダー含有シート) を使っていますが、トータル重量は若干重くしてあります。特性については、ロングアイアンは軟らかく、ボールを容易に捕まえ"より高く遠くへ"運ぶ仕様。ミドルアイアンからショートアイアンにいくにしたがって、しっかり感をもたせ"より確実にピンへ"という設定です」
その他の標準シャフトはスチールのNS850 GH(R)、NS950 GH(S)。それに加えラボスペック専用スチールシャフト「REPULSION KICK(リパルジョン キック)」が用意されている。素材にスプリング鋼を用い、切り返しでの粘り感を残しつつ、ダウンスイングからインパクトにかけて先端部が走り、ボールを拾うための絶妙な味付けが施されたシャフトである。バリエーションはST-90、ST105、ST-120の3タイプ。よりカスタマイズを望むゴルファーへの対応も万全である。
ゴルファーのスイングは様々だ。体型や筋力、技量によってリズムもテンポも微妙に変化する。だから、クラブも突出した一つの機能を備えているだけでは、本物の武器にはなりえない。画一的な基準ではすくいとれない細部にいたるまで機能美が充実していなければ、目の肥えたゴルファーには見向きもされないだろう。「オノフアイアン」が圧倒的な支持を得ているのは、それら全てを満たしているからに他ならない。





